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これまで貸し過ぎていたカードキャッシング、消費者金融

そもそも、これまでの消費者金融の営業スタイルは、「貸せる客には、いくらでも貸す」というものだった。とくに、職業や収入などの点での確認は、まったくないに等しかった。一部の業者では、窓口から勤務先に電話をさせて、実際に勤務や営業の実態があるかどうかという確認をしていたケースもあるが、それも詳細まで確認するわけではない。大手業者であっても、何一つ確認などしないケースも多かった。収入のない専業主婦であっても、「パートで働いていることにしてください」などと消費者金融の窓口で職員のほうから指示されて、そのように申し込み用紙に書き込まされるなどということは日常茶飯事だった。

同じように、アルバイトや派遣労働者であっても、「三ヶ月もお勤めなのでしたら、正社員として判断させていただきます」などと、根拠のない確認によって正規社員に仕立て上げられるなど常套手段だった。そうしたやり方で、ただのフリーライターでも「自営業者」「経営者」に早変わりである。このように、「ご利用は計画的に」などといいながら、およそ計画的とはいい難い貸付を行ってきたのが実態である。さらに、貸付金額に関しても、「客が断らなければ、できるだけ多くの金額を貸せ」というのは、業界の常識だった。たとえば、「一○万円」と希望する客であっても、二〇万円から三〇万円を貸し付けるケースが当たり前であった。

また、新たに契約したり、利用枠の拡大を行ったりした客に、その場で「本日のご融資は、いかがなさいますか」などと貸付について伺いを立ててくるのが普通だった。さらに、いったん契約させてしまえば、貸金業者の思う壷である。そのなかから、滞りなく返済している顧客、返済等にとくに問題のないケースであれば、ある程度の時期を見計らって、「貸出枠が広げられます」などと持ちかける。そして、まったく同様にろくに収入の確認などしないままに貸付枠を広げる。職員の差し出した用紙に、適当に自己申告で「年収の金額」を書き込むだけである。そして、たとえ年収二〇〇万円程度でも、あるいはまったく年収がなくとも、「年収五五〇万円」と根拠のない数字を書き込むだけである。

そうすれば、「枠が五〇万円から一〇〇万円に広がりました」と契約成立である。大金を貸し付ける割には、何とも簡単な作業である。こうした、あまりにいい加減な貸付が、以前はごく普通に行われていた。決して特殊な話ではない。まして、「ご利用は計画的に」などという話ではない。無計画でも何でも、借りたいと希望する客には収入など無視してどんどん貸し付ける。さらに、客が求めていなくとも、「コイツなら何とか返済できそうだ」などと値踏みした客には、職業も収入も無視してとにかく貸しまくる。それが、以前の消費者金融をはじめとする貸金業者の融資の実態であった。このような無軌道で野放図な貸付そのものが、二〇〇一年以降の深刻な多重債務の問題へとつながっていったことは言うまでもない。

総量規制で庶民は本当に「困って」いるのか

さて、大手マスコミが盛んに報じたように、この「総量規制」によって一般庶民は「ローンが組めない」「借入枠がいきなり減らされて困惑している」「テレビも買えない」といった、庶民にとっての不利益が発生しているのであろうか。ところが、実際にはそういった「被害」が出ているという話は聞こえてこないのである。二〇一〇年の春に、総量規制の実施に際して、埼玉県弁護士会と行政が共同で、ローンやクレジットに関する相談会が開催された。その会場にマスコミ各社が大挙して取材に訪れ、「借入ができなくなって、困っている人はいませんか?」と、TVカメラを回しながら叫んで回ったという。

ところが、その取材陣の呼びかけに応ずる人、実際に困っていると名乗り出る庶民は、ただの1人もいなかったというのだ。もしも、実際に借入が制限されて経済的に困窮するという現象がありうるとしたら、それは法改正の実施という社会全般への影響力をもつものが要因となっているわけであり、さらに、すでに法律は完全施行されているのであるから、そうした「被害者」は数多く発生しているはずである。ところが、この埼玉県で実施された、相応の規模の説明会においても、そうした総量規制によって悪影響をこうむったという事例はなかったのである。しかも、各マスコミが報じている内容も、「本当に総量規制が原因なのか」と疑いたくなるような記述が少なくない。

たとえば、ある経済誌に例として取り上げられているのは、次のようなケースである。ある中小企業の経営者が、取引先が倒産したため経営が悪化。そこで商工ローンに融資を頼んだが、今までなら貸してくれたのに「今回は貸せない」と突っぱねられた。すでに消費者金融やクレジットカードのキャッシングは限度額いっぱいまで借りてしまっている。そこで、他の消費者金融から借りようとしたが、こちらも「法改正によって審査が厳しくなった」との理由から、どこも貸してはくれなかった。万策尽きた経営者は、やむなくヤミ金に手を出してしまった。これがもとで債務が瞬く間に膨れ上がり、ついに自己破産せざるをえなくなってしまった。これは、何も総量規制が始まったからではない。

そもそもこの事業者は、銀行からの融資だけでは足りず、消費者金融やクレジットカードのキャッシングまで限度いっぱいに借りている時点で、すでに債務超過に陥っていた可能性が高い。だとすれば、総量規制があろうとなかろうと、債務整理が必要だったとも考えられる。また、専業主婦などが、「キッッシング枠がいきなりゼロになった」ことで困っている、という報道もある。しかし、すでに借入をしているケースで「いきなり全額を返済しろ」などと言っているわけではなく、とりあえずは「枠がなくなった」というだけの話にすぎない。実際、いくつかの消費者金融やカード会社の関係者に聞いたところ、「利用している顧客にいきなり『枠がゼロになった』などとするのは考えられないし、一方的に通告することもないのでは」と話す。

「利用しているお客さんについては、キチンと返済してくれている場合にはとくに変わったことはありませんね。いきなり枠をゼロにすることもないですし、一括返済を要求するなんて、まずありえません。考えられることとして、専業主婦のように無収入のケースで『今後は返済のみ』となってしまう可能性もあるかもしれませんが、必ずお客さんと相談してからになると思います」(某大手消費者金融社員)このように、すでに借りているケースについて見てみると、とくに大きな問題が起きているという話は聞こえてこない。報道などで、「専業主婦その他の収入がないケースで、いきなり借入枠がゼロになってしまう」ということが、はたして現実なのかどうかは不明だ。なかには、「そんなことはありえないのでは」と否定的な意見もある。「昔ならいざ知らず、最近ではクレジットカードの作成などについては、相当に厳しく審査するようになっている。

心得のある業者なら、収入のないケースでは顧客からの申し込み時点でキャッシング枠が希望されていても、断るなどの措置を取ってきたはず」(某クレジットカード会社関係者)たしかに、総量規制が完全施行される以前から、クレジットカード会社や消費者金融などの各社では、すでに顧客に対する審査や管理の強化を進めてきた。以前ならば、免許証等の本人確認書類の提示のみを求め、信用情報に問題がなければ収入についてほとんど確認もせずに貸し付けていた大手消費者金融各社も、二〇一〇年六月以前からすでに、新規契約の際には収入証明書類の提示を求めるといった対策をとるなど、改正法に対応した施策を続けてきている。そのため、今回の総量規制の完全施行が、ただちに消費者に対する影響を直接的に及ぼしたとはほとんど考えられないといっても過言ではない。

貸金業法改正までの経緯

貸金業者に対する法規制については、前述のように十年以上前から段階的に進められてきた。九〇年代初頭から始まった、いわゆるバブル経済崩壊によって、一般消費者や中小零細企業などが経済的に苦しい状況になるケースが多くなり、加えてアコムの「むじんくん」に始まる、九三年の自動契約機(無人契約機)の登場と、大規模なTVCMによって、消費者金融をはじめとするキャッシングやカードローンの利用が増大した。ところが、これが「借り過ぎ」という現象を招き、九〇年代半ばから自己破産件数が急増。

二〇〇二年には二十万件を突破し、二〇〇三年には約二十五万件にも及んだ。一方、九九年には社会的に注目された「商工ローン問題」が話題となった。これがきっかけとなり、二〇〇〇年に上限が四〇・〇〇四パーセントから二九・二パーセントにまで引き下げられた。さらに、最高裁判決を受けて、出資法の上限金利も利息制限法の範囲内でのみ認められるようなった。

一方、商工ローン問題のすぐ後で社会問題となったのが「ヤミ金」である。二〇〇二年から二〇〇三年にかけてヤミ金が猛威を振るい、消費者関連機関などへの相談が急増。自殺者なども出て大きな社会問題となった。このヤミ金問題で、それまでは民事不介入という姿勢だった警察も、ヤミ金などの違法な取り立て行為等を刑事事件として扱うようになった。このようにして、以前に比べると、確実に貸金業者への法規制は強化されていることがわかる。

マスコミがいっせいに報じる「総量規制の弊害」

二〇一〇年六月十八日、貸金業者による貸付総額を借り手の年収の三分の一以下にするという、いわゆる「総量規制」などを柱にした「改正貸金業法」が完全施行された。これは、この十年近くにわたって段階的に実施されてきたキャッシングやローンに関する法規制の一環である。二〇〇六年一月の最高裁判決によって、利息制限法と出資法との利息の格差、いわゆる「グレーゾーン」の問題がほぼ解決され、長年の課題であった利息制限法で定められた高金利が事実上無効となった。

そして今回、消費者金融等のいわゆる貸金業者による「貸し過ぎ」、消費者から見た「借り過ぎ」を防ぐという観点から、貸金業者による貸し出し限度額を、個人または世帯の収入の三分の一までとする、融資限度額の制限を法律によって規制するというものである。ところが、大手新聞、テレビ各局、主要雑誌などのマスコミは、この法規制の完全施行が行われた六月を機に、いっせいに総量規制に対する批判的な報道を連発し始めたのである。たとえば、『週刊ダイヤモンド』は二〇一〇年七月三十一日号で「サラ金消滅 ローン地獄」という特集を組んで、その問題点等を細かく指摘している。

そのほかにも、「改正貸金業法で借金難民七五〇万人!?」(『週刊朝日』)、「改正貸金業法で『庶民はテレビも買えない』時代がやってきた」(『週刊ポスト』)、「『総量規制』という法律だけでは解決しない『多重債務』という社会的問題の根深さ」(『サンデー毎日』)、「借金難民五百万人がやむなく堕ちてゆくヤミ金地獄の深い穴」(『週刊文春』)、「こんなに不便になる『ローン総量規制』の影響度」『プレジデント』)、「貸金業法改正 改めて問われる ”貸し手””借り手”それぞれの責任」(『財界』)、「誰かが言わねばならない 改正貸金業法 悪徳弁護士&司法書士や闇金を増やす」(『テーミス』)等々、今回の法改正と完全施行について取り上げている記事は多い。

そして、そのほとんどが総量規制に対して批判的、否定的な論調であり、「総量規制は消費者の利益にならない」などと強調している。タイトルも、「総量規制は悪」と決め付ける表現が目立つ。たとえば、写真週刊誌『FLASH』の見出しは、「ビンボー人は死ねと、法律がそう言っている!」。まるで、総量規制が施行されることによって、多くの庶民が死に追いやられると言わんばかりである。また、主要新聞やテレビ番組などでも、ほぼ同様の論調で、番組MCが「これって、本当に庶民のためになるんでしょうか?」などと□をそろえる。

あるテレビ局のバラエティ番組などでは、街頭でレポーターが通行中の主婦を手当たり次第に「総量規制ってご存知ですか?」とインタビューし、挙げ句は手持ちのクレジットカードや力ードローンの限度額まで確認させる有様だった。また、雑誌記事では、「ヤミ金業者」と称する人々が登場し、「法改正でこれからはヤミ金の天下」「ヤミ金の黄金時代が来る」などと豪語している。しかしその一方で、総量規制を詳細に点検するような意見や、総量規制を評価するような声はまったく取り上げられていない。それでは、貸金業法改正と、それによって実施された総量規制は、庶民の生活を圧迫してしまうようなものなのであろうか。

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